近年、ハイブランドがNFTに進出する例が増えています。
イタリアの高級ブランドGucci(グッチ)も、デジタル分野への積極的な取り組みを進めており、2022年にはNFTコレクション「SUPERGUCCI」や「Gucci Grail(グッチ・グレイル)」を立て続けに発表しました。
中でも、Gucci Grail NFTは、ファッションとNFTの融合を象徴するプロジェクトとして注目されています。
本記事ではGucci Grailとは何か、その基本情報やユーティリティ(実用性)、将来性や課題、購入方法などについて詳しく解説していきます。
Gucci Grail NFTの基本情報
Gucci Grailは、Gucciの実験的オンラインプラットフォーム「Gucci Vault」が仕掛けたNFTプロジェクトであり、デジタル職人のWagmi-sanが手掛けるNFTショップ、「10KTF」とのコラボレーションによって誕生しました。
以下にGucci Grail NFTの基本情報を表形式でまとめます。
項目 | 内容 |
---|---|
名称 | Gucci Grail(グッチ・グレイル) |
発行元 | Gucci(グッチ) ※NFTプロジェクト10KTFとの協業 |
リリース日 | 2022年3月16日 |
総発行数 | 4,253点 |
ブロックチェーン | Ethereum(イーサリアム) |
NFT形式 | PFP型(プロフィール画像向け)+ユーティリティ型(イベント参加、商品交換などの実用性) |
対象ユーザー | BAYC(Bored Ape Yacht Club)、World of Women、Cool Catsなど11の主要NFTコレクション保有者 |
販売方法 | 限定ミント(対象コミュニティ向けに配布されたMint Passを利用) |
現在の流通価格 | フロア価格 約0.04 ETH(約数万円)※2025年5月時点 |
Gucci Grail NFTは、Gucciのクリエイティブ・ディレクターであったアレッサンドロ・ミケーレの発想とデザインをもとに、10KTFの職人Wagmi-sanがデジタル上で仕立てた限定デジタル衣装付きアバターです。
上記の表から分かるように、総数は4,253点と限られており、対象となったNFT(例えばBAYCやWorld of Womenなど)を保有する一部のコミュニティメンバーだけがミント(発行)に参加できました。ブロックチェーンはイーサリアム上で発行されており、発行当時は暗号資産(ETH)で購入する形式が採られていました。
「PFP向けNFT」とはプロフィール画像用途のNFTという意味で、ユーザーは自分のNFTアバターにGucciのデジタルファッションをまとわせた画像を得ることができます。まさにファッションNFTの一例として、物理的な高級ファッションの世界観をデジタル上のアバターに投影したプロジェクトと言えるでしょう。
Gucci Grail NFTのユーティリティ

Gucci Grail NFTには、複数のユーティリティ(実用性や特典)があります。
- PFPアバターの着せ替え機能
自分のBAYCやWorld of WomenなどのNFTにGucciのデジタル衣装を着せられる(2種類のルック) - コミュニティ限定イベント「Battle Town」への参加権
NFTを使って10KTF内のゲームイベントに参加可能 - Gucci Vault Material NFTの獲得チャンス
イベント参加で無料エアドロップされる素材系NFT - 実物グッズとの交換特典
Vault Material NFTを使って
・1枚 → グッチ製二つ折り財布
・3枚 → グッチ×10KTFダッフルバッグ と交換できた - Gucci Vaultコミュニティでのホルダー認証
Discordで特別なロールや限定チャンネルへのアクセスが可能 - メタバース「Gucci Vault Land」への特別アクセス
The Sandbox内での限定イベントや展示参加など - 今後のGucci×Yuga Labsプロジェクトとの連携の可能性
Othersideや新作NFTとの接続が期待されている
Gucci Grail NFTのユーティリティとして特筆すべきは、デジタルとリアル双方にまたがる体験を提供している点です。
PFP機能

当初、このNFTの直接的な機能は「自分のPFPアバターにGucciの限定デジタル衣装を着せる」ことでした。
対象ユーザーは配布されたMint Pass(ミントパス)「Magic Globe」を使用して、自分の保有する対象NFT(BAYCやCool Catsなど)のアバターに、グッチの人気コレクションをモチーフにした2種類のカスタムルックのいずれかを選んで着せることができました。
出来上がったGucci Grail NFTは、各ユーザーのアバターごとに唯一無二のデジタルアートとなり、コレクション性の高いカスタマイズPFPとなっています。
コミュニティ参加機能

さらにGucci Grailの価値を高めたのが、その後のコミュニティ参加型の特典です。
GucciはNFTプロジェクト10KTF内のイベント「Battle Town(バトルタウン)」と連動し、Gucci Grail保有者に対して新たなNFT報酬を用意しました。
2023年、このイベントにGucci Grail NFTを用いて参加したユーザーには、「Gucci Vault Material」と呼ばれるNFTがエアドロップ(無料配布)されました。このVault Material NFTを所持していると、10KTFのサイト上でそれを実物のGucci製品と引き換えることができたのです。
具体的には、1つのMaterial NFTでグッチの二つ折り財布、3つ集めるとグッチと10KTFのコラボロゴ入りダッフルバッグと交換できるという特典で、追加費用不要で限定アイテムが入手可能でした。
これはデジタル上の所有物(NFT)がリアルの高級ブランド商品に結びつく画期的なユーティリティであり、「デジタルとフィジカルの橋渡し」として評価されています。
このほか、Gucci Grail NFTの保有者はGucci VaultのDiscordコミュニティで特別なロール(役職)やイベント参加権が与えられるなど、ブランドのWeb3コミュニティの一員として扱われています。限定コラボの参加者となることで得られるステータスや、他のホルダーとの交流も無形のユーティリティと言えるでしょう。
また、Gucci Grailは10KTFが展開する物語世界「New Tokyo」の一部でもあり、今後そのストーリー内で追加の展開やNFT活用が行われる可能性もあります。
Gucci Grail NFTのユーティリティは「デジタルファッションを楽しむ権利」と「コミュニティ参加による特典」の2大要素があり、ファッションNFTならではの魅力を発揮している
実際の使用事例
実際にGucci Grail NFTを保有し活用した事例として、前述のVault Material NFT引き換えが挙げられます。
あるホルダーは、自身のGucci Grail NFTをBattle Townのイベントに参加させ、報酬として得たVault Material NFTを用いてグッチの実物ウォレットを受け取りました。このユーザーはDecryptのインタビューで「ただ持っているだけではなく、積極的に参加することで報われた。(中略)デジタルと物理の架け橋となる取り組みは非常にスマートだ」と述べており、NFTを通じてブランドから直接恩恵を受けられた点に満足感を示しています。
従来、NFTはデジタル上の画像やアートを所有するだけのケースも多かった中、Gucci Grailはユーザー参加型の報酬という実体験機能を提供したことで、ホルダーのエンゲージメント(関与度)を高めたのです。
また別の観点では、Gucci Grail NFTをプロフィール画像(PFP)として活用しているユーザーも見られます。
XなどのSNS上で、自分のBored ApeやCool Catがグッチの衣装を着ている画像をアイコンに設定することで、ユニークな自己表現を楽しむホルダーもいました。これは「自分のアバターをお洒落に着せ替える」感覚で、デジタルファッションアイテムとしてのGucci Grailの価値を実感できる使い方と言えます。特にNFTコミュニティ内では、「自分のNFTキャラクターがGucci公式の衣装を身に付けている」という事実自体が話題性を生み、ホルダー同士の交流のネタになることもあります。
さらに、Gucci VaultのDiscordではGucci Grail保有者限定のチャンネルやイベントが用意され、ホルダー同士でミント体験を共有したり、今後の展開について議論したりする場も提供されました。
このNFTの将来性・課題

Gucci Grail NFTの将来性について考えると、いくつかの明るい展望が見えてきます。
- GucciのWeb3戦略が継続中
Yuga Labs(BAYCの運営)との提携を発表し、Othersideメタバースでも展開中 - ファッションNFTの先駆例として注目
ラグジュアリーブランドが手掛けた初期のNFTコレクションとして歴史的価値がある - ホルダー限定イベントやリワードの可能性
Gucci Vaultや10KTFの新たなイベントで特典が付与される可能性がある - Gucci Grail保有者への将来的な特典拡大の期待
メタバース内での優遇・新NFTとの連携などの可能性
まず、Gucci自体がWeb3領域へのコミットメントを引き続き強めていることが挙げられます。
2023年3月には、BAYC(Bored Ape Yacht Club)や10KTFを傘下に持つYuga Labs社との複数年パートナーシップが発表されました。この提携は、GucciがYuga Labsの手掛けるメタバース「Otherside」やNFTプロジェクト群と連携し、さらなるファッションとデジタルの融合を図るものです。
つまり、Gucci Grail NFTもYuga Labsエコシステム内で新たな役割や価値を得る可能性があります。例えば、将来的にOtherside上でGucciの着用アイテムが使えるようになれば、Gucci Grail保有者に優先アクセス権や特別アイテムが提供されるかもしれません。また、GucciはSandboxなど他のメタバースプラットフォームにも参入しており、Vault Landでのイベントなども実施しています。
このようにブランド全体のWeb3展開が続く限り、Gucci Grailも長期的な視野で恩恵を受ける余地があるでしょう。
さらに、Gucci Grailは「ラグジュアリーブランド初期のNFT事例」として、コレクターズアイテム的な価値を持つ可能性もあります。NFT市場全体のトレンドが再び高まりを見せた際には、ブランドのファンやNFTコレクターにとって、「Gucciが手掛けた最初期のNFTの一つ」として長期的な注目対象となるかもしれません。
しかし一方で、課題もいくつか存在します。
- フロア価格の下落
リリース当初に比べ二次流通価格は低下傾向、短期リターンは期待しにくい - 参加ユーザーが限られる
初期は一部NFTホルダーのみ参加可能だったため、認知度が限定的 - 開発元のキーパーソンが退任
元グッチのディレクターであるアレッサンドロ・ミケーレ氏が退任し、今後の方向性に不透明さも - 継続的なユーティリティ供給が必要
プロジェクト継続のためには、新イベントや実物特典の追加が求められる
まず、二次流通でのフロア価格が大きく下落しており、リリース当初に比べると価値が低くなっている点が挙げられます。これはNFT市場全体の冷え込みも影響していますが、投資目的のユーザーにとっては短期的なリターンが期待しにくい状況です。
また、本プロジェクトはもともと一部のNFT保有者だけが参加できる限定設計だったため、知名度やコミュニティの広がりが限られているという面もあります。多くのGucciファンやNFTユーザーには存在が届いていないのが現実です。
さらに、プロジェクト開始当初の牽引役であったアレッサンドロ・ミケーレ氏が2022年11月にGucciを退任したことも、今後の展開に影を落とす可能性があります。ただし、Gucci Vaultチームや提携先の10KTF(現在はYuga Labs傘下)が主体となっていれば、プロジェクト自体はブランドの大きな方針転換に左右されず継続する可能性もあります。実際に、ミケーレ氏退任後もGucciはVaultを通じてNFTホルダーへのリワード(前述の実物交換など)を実行しており、組織としてWeb3へのコミットメントは維持されています。
今後もGucci Grailをより魅力的に保つためには、新たなイベントやユーティリティの提供が不可欠です。一度リワードを配っただけでは長期的なエンゲージメント維持は難しいため、ホルダーを飽きさせない工夫が求められます。
Gucci Grail NFTは価格の下落や継続的な企画の必要性といった課題があるものの、ラグジュアリーブランドとWeb3の融合を象徴する先駆的プロジェクトとして将来性が期待される
筆者によるGucci Grail NFTの分析

当メディア、「NFTユーティリティ図鑑」を運営する筆者の視点でGucci Grailを分析していきます。NFTの購入方法についてはこの次のセクションに記載しております。
筆者の視点から見ると、Gucci Grail NFTはラグジュアリーブランドによるNFT活用の先駆的事例として大きな意義を持つと感じます。
その最大の功績は、単にデジタルアートを販売するのではなく、既存のNFTコミュニティとのコラボレーションという形を取った点です。BAYCやCool Catsといった人気NFTプロジェクトのホルダーを取り込み、彼らのPFPにGucciのエッセンスを加えるという発想は、従来ブランドが抱えていた「どうやってNFTネイティブな層にリーチするか」という課題に対する一つの解となりました。
また、Gucci Grailはブランドマーケティングの観点でも巧みなプロジェクトでした。
Gucci Vaultというプラットフォームの存在感を高め、Gucciが単なるファッションブランドに留まらない、デジタルカルチャーを牽引するイノベーターであるという印象づけに成功しています。ミケーレ氏のクリエイティブビジョンと10KTFのクールなブランドイメージの融合は、Web3界隈だけでなくファッション誌や一般メディアにも取り上げられ、PR効果も大きかったと考えられます。
一方で、筆者はGucci Grailの限界点も感じています。
それは「グッチのコアなファッション愛好家層」と「NFTコミュニティ層」の間に依然存在する溝です。Gucci Grailは確かにNFTホルダーには刺さりましたが、従来のGucci顧客——例えば実際のグッチ製品を購入するファン——の多くには届かなかった印象があります。
「Gucci Grailの存在を知らないままGucciのバッグを買っている顧客」は大勢いるはずで、そうした層にリーチしブランド全体の価値向上に結びつけるには、さらなる工夫が必要に思われます。
とはいうものの、これはGucci Grailだけの課題というより「NFT業界全体の課題」という側面が強いのもまた事実です。
NFTをはじめとするWeb3系インフラが一般層に普及するまでは、「実験的プロジェクト」としてリーチ方法を模索していくことになりそうです。
総評
今後、他のラグジュアリーブランドがNFTやメタバースに参入する際にも、Gucci Grailの成功と課題が一つの教訓となるでしょう。Gucci自身も、この経験を踏まえてさらに洗練されたWeb3戦略を展開してくれることを期待しています。
Gucci Grail NFTの購入方法
ここではGucci Grail NFTの購入方法について解説します。既に初期販売は終了しているため、新たに入手するには二次流通マーケットで購入する必要があります。
MetaMask(メタマスク)などのEthereum(イーサリアム)対応ウォレットを作成しましょう。これはNFTの購入・保管に必須です。公式サイトから無料でインストールできます。
NFTの決済には、暗号資産「ETH(イーサ)」が必要です。国内取引所(例:Coincheck、GMOコイン、bitbankなど)でETHを購入し、ウォレットへ送金しましょう。
マーケットプレイス「OpenSea」にアクセスし、検索欄に「Gucci Grail」または「10KTF Gucci Grail」と入力します。青い認証バッジがついた公式コレクションを選びましょう。
好みのデザイン・価格のNFTを選び、「Buy Now」で即購入、または「Make Offer」で希望額を提示します。購入時にはウォレットで署名し、ガス代(手数料)を支払います。
購入完了後、NFTはあなたのウォレットに保存されます。OpenSeaやMetaMaskなどで保有確認が可能です。
まとめ

いかがでしたでしょうか。
Gucci Grail(グッチ・グレイル)NFTは、ラグジュアリーブランドとNFTカルチャーの融合を体現した注目のプロジェクトです。導入部で述べた通り、Gucciはこのプロジェクトを通じてファッション分野におけるNFT活用の新境地を開拓しました。
Gucciという伝統あるブランドがこのようなWeb3的革新に挑戦した意義は大きく、今後の展開にも引き続き注目していきたいところです。
FAQ
Gucci Grail NFTは誰でも購入できますか?
初期販売時は対象が限定されており、一般販売は行われませんでしたが、現在では初期ミントが完了しているため、二次流通マーケット(OpenSeaやBlurなど)であれば誰でも購入可能です。
ファッションNFTとは何ですか?
ファッションNFTとは、服飾ブランドやデザイナーが関与するNFTの総称で、デジタル上でファッションアイテムや体験を提供するものです。従来のNFTがデジタルアートやコレクターズアイテムに留まっていたのに対し、ファッションNFTは「デジタルな衣装やアクセサリーを身に着ける」という要素が特徴です。
Gucciは他にもNFTプロジェクトを行っていますか?
はい、GucciはGucci Grail以外にも複数のNFT関連プロジェクトを展開しています。例えば2022年2月にはフィギュアで有名なSUPERPLASTIC社とのコラボによる「SUPERGUCCI」というNFTコレクションを発表しました。これはグッチのアイコニックなモチーフを取り入れた限定NFTと陶器製フィギュアのセットで、即完売する人気となりました。また、メタバース分野ではThe Sandbox上に「Gucci Vault Land」をオープンし、バーチャル空間でのブランド体験を提供しています。2023年にはBAYCで有名なYuga Labs社との提携を発表し、Othersideというメタバースプラットフォーム上で「Otherside: Relics by Gucci」という限定NFT(ペンダント型のNFTとそれに対応する実物ジュエリー)を発売するなど新たな試みも始まっています。